小方 登(京都大学名誉教授)
ここでは,2013年11月と2015年9月にウズベキスタンで行った集落遺跡調査の成果を紹介します。対象地域であるウズベキスタンのサマルカンド周辺には,「テパ」と呼ばれる丘状の集落遺跡が多く分布しています。当地では,日乾し煉瓦などを材料として建物を建て,建物が崩れるとさらにその上に建てるということを繰り返すので,集落遺跡が丘状を呈し,これをテパと呼んでいます。中東で「テル」と呼ばれるものに相当します。日本人の目には周濠を持つ古墳のように見えますが,墳墓ではなく集落跡です。実際にテパの上に立つと,陶片などが散乱しており,人々の生活の痕跡を見ることができます。
衛星写真を見ると,この地域にはテパが非常に多く,その他に囲郭などからなる集落遺跡も見られます。ここではCORONA衛星写真(1964年10月20日/1966年9月23日撮影)と現地の状況を示す写真を組み合わせて,遺跡の説明をします。同様のテーマで(財)なら・シルクロード博記念国際交流財団/シルクロード学研究センターの課題研究「衛星写真等を用いたシルクロード都市・遺跡データベースの作成」(代表者:小方登)においても,2000年に調査が行われ,成果は出田(2003)にまとめられています。このページもご参照ください。 2000年の調査では,ゼラフシャン川流域を中心に調査したのに対し,2013年/2015年の調査では,カシュカダリヤ川流域を重点的に調査しました。
ここでは集落遺跡の構成要素について,テパ(丘)の高い部分を「シタデル(城砦)」,そのほかの部分を「シャフリスタン(町場)」などと呼称しています。しかし,こうした形態についての記述は,当座の仮のものであり,必ずしも一貫したモデルに基づくものではありません。「周濠」についても,その性質や集落遺跡との関連など,不明な部分があります。テパやその他の集落遺跡について,各種要素からなる形態に関しモデルや類型化を示すことが,研究の今後の課題です。
紀元前4世紀のアレクサンドロス大王東征の記録には「マラカンダ」が見え,現在のサマルカンドであると考えられています。また紀元後7世紀,三蔵法師として知られる中国の僧,玄奘は,『大唐西域記』でサマルカンドを西域諸国の中心であると述べています。歴史を通してこの地域はシルクロードの要衝を占めていました。この調査で訪れた遺跡の中にも,アケメネス朝時代(紀元前6〜前4世紀)やヘレニズム時代(紀元前4〜前1世紀)にさかのぼるものがあります。
2013年と2015年の調査は,それぞれ科学研究費プロジェクト「衛星画像を利用したユーラシアにおける都市遺跡・歴史的都市の立地とプランの類型化」(基盤研究(C),課題番号23520951,代表者:小方登)および「衛星データを利用した中央アジア・西アジアにおける歴史的集落の立地と形態の研究」(基盤研究(C),課題番号26370921,代表者:小方登)の一環としてなされました。これらの研究成果の一部は,小方(2014)および小方(2016)として刊行されました。
【参考文献】
- 加藤九祚・B. A. トゥルグノフ(1996)「ダルヴェルジン・テパ遺跡」,ウズベク共和国文科省ハムザ記念芸術学研究所・創価大学『ダルヴェルジンテパDT25 1989〜1993 発掘報告書』,1-13頁.
- 出田和久(2003)「ウズベキスタンの都城遺跡を探る — Corona衛星利用の試み — 」,『シルクロード学研究17 衛星写真を利用したシルクロード地域の都市・集落・遺跡の研究』,39-51頁.
- 山口欧志・宇野隆夫(2010)「中央アジア・シルクロード都市の歴史空間」,宇野隆夫編著『ユーラシア古代都市・集落の歴史空間を読む』勉誠出版,99-127頁.
- 宇野隆夫,ベルディムロドフ・アムリディン編(2013)『ダブシア城 — 中央アジア・シルクロードにおけるソグド都市の調査 — 』真陽社.
- 小方登(2014)「中央アジアにおけるテパの分布と形態 ― 2013年度ウズベキスタン調査から ― 」,『地域と環境』13号,109-120頁.
- 小方登(2016)「中央アジアにおけるテパの分布と形態(その2)― 2015年度ウズベキスタン調査から ― 」,『地域と環境』14号,109-122頁.
- Abdullaev, K. and B. Genito (2014) The Archaeological Project in the Samarkand Area (Sogdiana): Excavations at Kojtepa (2008-2012), Universita Degli Studi di Napoli "l'Orientale" Dipartimento Asia, Africa e Mediterraneo; Institute of Archaeology of the Academy of Science of Uzbekistan; Series Minor LXXIX.
調査対象地域の概要を示すLANDSAT画像(1988年7月25日/1991年8月4日撮影)。ゼラフシャン川流域(北)とカシュカダリヤ川流域(南)に耕地が広がっているのが分かる。 |
11月17日:関空発,仁川経由で夕刻,タシケント着。
11月18日:タシケントからサマルカンドへ移動。途中,カンカ遺跡を見る。
←カンカ遺跡のCORONA衛星写真。 |
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カンカ遺跡の周濠とシタデル→ |
←カンカ遺跡のシタデルからの眺め。西側。 |
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カンカ遺跡のシタデルからの眺め。東側→ |
11月19日:ウズベキスタン考古研究所を訪問の後,サマルカンドからシャフリサブズへ向かい,カシュカダリヤ川流域の遺跡を見て回る。クシュ・テパ,ヤルポク・テパは,カシュカダリヤ川支流のカラス川(グザール川)扇状地にある。サマルカンド泊。
←クシュ・テパのCORONA衛星写真。 |
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クシュ・テパ→ |
←ヤルポク・テパのCORONA衛星写真。 |
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クシュ・テパから望むヤルポク・テパ→ |
←ヤルポク・テパのシタデル。 |
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ヤルポク・テパのシタデルから南を望む→ |
11月20日:この日もカシュカダリヤ川流域の遺跡を調査。オディルマ・シャフルを訪れたが,この遺跡については,2015年調査のところで説明する。その後,カラ・テパ,コマイ・テパを調査。サマルカンド泊。
←カラ・テパのCORONA衛星写真。 |
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カラ・テパのシタデル→ |
←コマイ・テパのCORONA衛星写真。 |
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コマイ・テパ→ |
11月21日:ゼラフシャン川流域の遺跡,コク・テパとダブシア遺跡を調査。ダブシア遺跡近くにイスラム聖人の廟があり,そこで地元の人々と交流。サマルカンド泊。
←コク・テパのCORONA衛星写真 |
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綿花畑の向こうに見えるコク・テパ→ |
←ダブシア遺跡のCORONA衛星写真。 |
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ダブシア遺跡→ |
←ゼラフシャン川から見上げるダブシア遺跡。 |
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ダブシア遺跡の壕→ |
11月22日:ゼラフシャン川流域の遺跡,カフィル・カラとクルドル・テパを調査。カフィル・カラは2000年8月に調査で訪れており,13年ぶりの訪問である。サマルカンド泊。
←カフィル・カラのCORONA衛星写真。 |
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カフィル・カラ→ |
←クルドル・テパのCORONA衛星写真。 |
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クルドル・テパのシタデル→ |
←クルドル・テパのシタデルから見る囲郭。南側。 |
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クルドル・テパの東側の囲郭→ |
11月23日:サマルカンド市内を見学。夕方,タシケントへ移動。タシケント泊。24日:国立歴史博物館およびタシケント近郊の遺跡を見学。夕方,帰国へ。
9月20日:関空発,仁川経由でタシケントへ。21日:タシケントの科学アカデミー附属展示室を観覧。サマルカンドへ移動後,カフィル・カラを訪問。サマルカンド泊。22日:中国の調査隊が行っている墳墓の発掘現場を見学。午後はサマルカンドの歴史博物館を観覧。サマルカンド泊。
9月23日:サマルカンドからカルシへ移動。カシュカダリヤ川沿い,カルシ周辺の遺跡を調査。エル・クルガンなど。カルシ泊。23日から25日にかけての調査では,ウズベキスタン考古研究所のスタッフで考古学者のアブサビル・ライムクロフ氏に同行していただき,考古地物・遺物についてご教示を得た。
←エル・クルガンのCORONA衛星写真。 |
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エル・クルガン遺跡東南の隅櫓→ |
←エル・クルガンの城壁東北側の門。 | ||
エル・クルガンのシタデル→ |
←キンディク・テパのCORONA衛星写真。 | ||
キンディク・テパ→ |
←ナサフ遺跡のCORONA衛星写真。 | ||
ナサフ遺跡のテパ→ |
←パルチャ・カラのCORONA衛星写真。 | ||
パルチャ・カラのシタデル→ |
9月24日:カシュカダリヤ川沿いの遺跡を調査。東へ向かい,シャフリサブズ泊。
←カシュカダリヤ川。 | ||
オディルマ・シャフル北側を流れる小川→ |
←オディルマ・シャフルのCORONA衛星写真。 | ||
オディルマ・シャフル北側の門→ |
←オディルマ・シャフル内側の囲郭。 | ||
オディルマ・シャフル遺跡表面に見られる陶片→ |
←オディルマ・シャフル遺跡表面に見られる陶片。 | ||
オディルマ・シャフルの地下に見られる土管→ |
←ホージャ・ブズルグのCORONA衛星写真。 | ||
ホージャ・ブズルグ→ |
←ボブル・テパのCORONA衛星写真。 | ||
ボブル・テパ→ |
←チムクルガン・テパのCORONA衛星写真。 | ||
チムクルガン・テパの西側の壕→ |
←チムクルガン・テパのシタデル。 | ||
チムクルガン・テパの南側の壕→ |
9月25日:シャフリサブズの博物館を観覧,またユマロク・テパを調査。午後サマルカンドへ移動。26日:考古研究所を訪問。またアフラシャブ博物館を観覧。夕方,サマルカンドからタシケントへ移動。27日:タシケントの国立歴史博物館を観覧。夕方,空路帰国へ。
Created by Noboru Ogata
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